久留米内科医会学術講演会(H25.11.12)

日時:平成25年11月12日

特別講演

心血管「死亡リスク因子としての骨粗鬆症

      -骨芽細胞/骨細胞活性化でさらに動脈硬化は防止できる-」

講師:大阪市立大学院 医学研究科代謝内分泌病態内科学・腎臓病態内科学

       教授     稲葉 雅章 先生

骨粗鬆症は ‘骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが高くなる骨疾患’ と定義され、骨強度が評価されます。

骨強度のうちの約70%は骨密度が規定し、残りが骨質により決まります。 骨密度はカルシウム(Ca)やリン(P)などのミネラルの量や密度であり、骨質とはコラーゲンおよびその架橋です。

骨は常に作られては壊されるという再構築(リモデリング)を繰り返すことで維持されています。 骨吸収と骨形成のバランスは、全身性の因子(性ホルモン、Ca調節ホルモン、VitD,K,B、酸化ストレス、糖化ストレス)や、局所因子(力学負荷の増減、非荷重)により制御されています。 それらの種々の要因が影響すると、骨吸収過程と骨形成過程との間で量的平衡関係が破綻するとともに構造的、材質的な劣化が進行して、骨強度が低下します。 なお、リモデリング1回転に6から9ヵ月を要し、その間に1から2%の骨量を損失します。さらに、Ca欠乏状態では骨代謝回転が一段と亢進します。

骨吸収を担うのが破骨細胞で、骨形成を担うのが骨芽細胞です。この両者に加えて、破骨細胞の終末分化した細胞として骨形成後の骨基質中に埋め込まれた骨細胞が、お互いに関わりながら、骨代謝を制御しています。

[骨代謝と動脈硬化  特にリン(P)代謝との関係]

 生体の99%のカルシウム(Ca)は骨に存在しますが、Pでは約70%が骨に存在し、両者はハイドロキシアパタイトを形成しています。したがって骨吸収時には両者とも放出されます。

生体内へのPの流入経路は骨吸収によるものと経口によるP摂取です。日本人のPの摂取量は700mg/日程度ですが、食品添加物内の酸化リンは 消化管から完全に吸収されるために、取りすぎると過剰摂取となり生体毒(リン毒性)として作用することとなります。 一方、P排泄機構としては、腎から尿として約60%が排泄され、残りが便として排泄されます。 従って、血中P濃度は腎での調節に依存しています。骨石灰化の制御のために骨細胞を中心として分泌される線維芽細胞増殖因子(FGF-23)や副甲状腺ホルモン(PTH)は強力なP利尿ホルモンとして作用し、P濃度を調節しています。 したがって、血中P増加は骨吸収亢進、経口P摂取増加、腎でのP排泄低下により引き起こされます。

CaやPの代謝にはPTHやVitDをはじめとして様々な因子が複雑に関係しています。

血清P濃度と動物の関係をみると、動物間では差があり、人間のように血清P濃度が低い動物ほど寿命が長い傾向にあります。

[Pと心血管病変との関係]

閉経後女性の心血管イベント発症の予測因子は、糖尿病(4.7倍)、高血圧(2.6倍)、脂質異常症(1.9倍)、喫煙(2.7倍)であり、骨粗鬆症においては3.5倍とかなり高い方です。

骨粗鬆症が心血管イベントリスクとなる機序は、骨吸収亢進に伴ってP放出が生じることで、PがNO産生抑制、活性酸素産生促進、炎症惹起作用を介して血管内皮細胞障害を起こしたり、血管壁構成細胞である血管壁平滑筋細胞を骨芽細胞様の形質に脱分化させ、血管壁内に骨に類似した構造を有する石灰化部を形成させることによります。 これは、Caと結合しなくてもPのみで増悪因子となります。

またPは加齢に伴う腎機能低下を促進し、末期腎不全となる率を上昇させます。糖尿病に対しても、骨粗鬆症では骨からのP放出や、FGF-23の減少や、VitKの作用のもとで骨芽細胞より産生されるオステオカルシンの減少により、膵β細胞数の減少に加えてβ細胞のインスリン分泌能の低下も起こし、血糖コントロールを増悪させます。

[骨粗鬆症の診断]

 <骨密度測定>

 <骨代謝マーカー>

   骨吸収マーカー:DPD,NTX,CTXは1型コラーゲンの分解過程に放出され るもので、破骨細胞による骨吸収を反映します。 TRACP-5bは破骨細胞のマーカー酵素で、破骨細胞の形成とともに分泌されます。

   骨形成マーカー:骨ALP(BAP)、オステオカルシン(OC)はある程度成熟した骨芽細胞のマーカーです。PINP、PICPは1型コラーゲン合成過程で産生され、骨形成の比較的早期のマーカーであり、骨基質形成能を反映しています。

   骨質マーカー:ペントシジン、ホモシステインが易骨折性と関連します。

 [骨粗鬆症の治療]

  <骨吸収抑制薬>

    1・ビスホホネート製剤

    2・選択的エストロゲン受容体作動薬

    3・抗RANKL抗体:骨髄間葉系細胞や骨芽細胞や骨細胞に発現し、破骨細胞前駆細胞に発現するRANKに結合して破骨細胞の形成を誘導する分子であるRANKLの中和抗体です。

   <骨形成促進薬>

     テリパラチド:最も強力な骨形成促進薬で、他剤で効果不十分な場合や重症な骨粗鬆症には積極的に用いられます。

 

その他にも開発中の薬も多いですが、骨特異性が高く、他の組織に対して安全性の高いものの臨床応用が期待されます。 また、骨代謝障害には酸化ストレスや終末糖化産物の蓄積などの問題も密接に関与しており、生活習慣病治療薬と骨粗鬆症治療薬がそれぞれ、骨代謝と動脈硬化・脂質代謝にも影響を及ぼすことが、明らかになっています。 そこで、今後はこのような生活習慣病や動脈硬化などと共通の病態に対する治療的アプローチの進展も期待されるところです。

今回の講演では、稲葉先生に軽快な口調でテンポ良く高リン血症と動脈硬化の関係を中心に、骨粗鬆症全般について詳しく教えて頂きました。 講演はビデオ撮影されていたようですので、それを見せてもらえばもう少し適格な報告ができたと思いますが。 いずれにしても、これまで私自身あまり注目してこなかった高リン血症が様々な疾患の増悪因子となり、ひいては寿命にまで影響してくるということ等、大変勉強になりました。 講演で学んだ事を、これからの診療に少しでも役立てたいと思っております。

              広報委員      松枝俊祐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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