平成26年1月20日に、第9回 認知症フォーラムin久留米内科医会が開催されました。
特別講演: 生活習慣病における早期認知症の取り扱い方
演者 秋田県立脳血管研究センター 神経内科学研究部
山崎 貴史 先生
高齢化社会に伴い認知症は増加傾向にあり、介護の必要は認知症の方の人 数は、2015年には250万人、2025年には320万人に達するといわれています。
認知症全体では2015年に3 45万人(65才以上の10.2%)に達するといわれています。
「認知症とは」
一度正常に発達した認知機能が、後天的な脳の障害により持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態であり、意識障害は伴いません。
また、認知症は症候群であり、様々な疾患を起因として起こってきま す。最も多いのがAlzheimer病(AD)で約50%、続いて血管性認知症(VaD)で20%、Lewy小体型認知症(DL B)で20%、前頭側頭葉変性症(FTD)およびその他です。
認知症の際に起こる症状は、中核症状と周辺症状に分けられ、
中核症状とは 認知症になると必ず認められる症状で、記銘力低下、見当識障害、あるいは失行、失認、失語などの認知機能 障害のことです。
周辺症状とは中核症状を主因とした不安感や不満、怒りなどを原因と しておこる症状です。
AD:潜行性に発症し、緩徐に進行します。 近時記憶障害での発症が 多く、進行に伴い見当識障害や頭頂葉症状(視空間認知障害、構成障害)が加わります。
比較的早期から、物盗られ妄想が認められる場合があり、病識の 低下・うつ・アパシーなどの精神症状や、取り繕い反応といった特徴的な対人行動が認められます。
CT,MRIでは、内側側頭葉の委縮が認められ、SPECTで は両側側頭・頭頂葉の血流低下が認められます。
病理では肉眼的にびまん性脳委縮があり、病理組織学的には、大 脳皮質の神経細胞の著明な脱落に加え、 大量かつびまん性に出現する老人斑、Alzheimer型神経原線維変 化があります。
ADでは発症の最初期よりβアミロイドの蓄積があり、認知症を 悪化させます。
VaD:脳血管障害に関連した認知症で、その病態に従って多彩な症状 があります。
非アルツハイマー型変性性認知症 DLB:進行性の認知機能障害、幻視を中心とした精神症状、パーキン ソニズム、自律神経障害を主症状とし、大脳から脳幹に及ぶ中枢神経系と自律神経系の神経細胞脱落と、Lewy小体の出 現が特徴です。
FTLD:前頭葉が主として侵され、早期から社会的対人行動の障害や 自己行動の調節障害があります。
「記憶について」
記憶の種類としては感覚記憶・短期記憶・長期記憶があり、受けた刺激 は各感覚器官から海馬に到達します。
脳神経細胞は軸索と樹状突起から構成されており、軸索は次の神経細胞 の樹状突起とシナプスと呼ばれる構造で結合しています。
神経細胞が興奮すると軸索の終末部(シナプス前部)からグルタミン酸 が放出され、つぎの神経細胞の樹状突起(シナプス後部)のグルタミン酸受容体(A MPA受容体)が受け取ることにより信号が伝えられます。
グルタミン酸とAMPA受容体による情報伝達の起きやすさは状況に応 じて変化します。この現象をシナプス可塑性といい、記憶・学習の基礎課程であると考えられています。
海馬でこの電気信号が活発に流れているのが、短期記憶が行われている 状態です。
そしてその刺激を過去の記憶に基づき解釈・理解し、必要なものを大脳 皮質に書き込み、長期記憶となります。
記憶の機能は、記名・保持・想起です。
「認知症の診断」
患者の変化に気づくことが大事ですが、そのためには日頃の状態をよく 知っておくことです。診察時に一緒に生活をしている家族などの同伴があると、より診断しや すくなります。 いずれにしても、時間をかけてよく話を聞くことです。また、家族と話すと介護疲れの家族のガス抜きにもなり、大切なことで す。
認知機能の評価法としては長谷川式とMMSE等があり、短時間で出来 て有用ですがそれぞれに欠点があり、単独での評価は避けた方が良いようです。
CT・MRIなどの画像診断は脳血管障害や局在病変による認知症の診 断には有効ですが、画像診断だけでADの診断はできません。
ADの進行過程において、認知症の出現以前に軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の時期があります。
健忘などの認知機能障害があるが、認知症に至っていない「正常と認知症の中間状態」です。
この時期をとらえるのが重要です。
MCIからADへ進展しやすい特徴として、近時記憶が不良・内側側頭 葉の委縮・PETやSPECTで頭頂側頭葉、後部帯状回の血流や代謝の低下・髄液のリン酸化タウの 高値・ApoE4保持者があります。
「ADと血管障害・生活習慣病」
かつてはVaDとADは対極に存在すると考えられていましたが、現在 では脳血管病変を有するADの存在が多く認められ、
また、特に高齢者ではADと脳血管障害(CVD)の病理所見が共存 する病態が多くみられることから、PureADやPureVaDとは別に「AD with CVD」という概念が確立されてい ます。
中年期の高血圧や脈圧の上昇、脂質異常症および糖尿病などの生活習慣 病や加齢、喫煙はCVDを引き起こすとともに、
血管老化や代謝老化を介してADの病態を修飾しています。またそれ らに加えて、うっ血性心不全なども、ADとCVDの共通の危険因子となります。
「治療」
内服薬はADにのみ適応があり、病因のコリン仮説によりドネペジル、ガ ランタミン、リバスチグミン。
グルタミン酸神経毒仮説により メマンチンが承認されています。現在、アミロイドカスケード仮説に基 づきβアミロイドの産生・代謝に関与する酵素阻害薬が開発 されています。
認知症患者の対応では、家族・ケアマネージャー・地域包括センター・専門医との連携が大切だそうです。
山崎先生には物忘れ外来での豊富な経験やデータから、我々内科医が認知症を早期に見つけるための診察のしかたや、
認知症と血管障害、生活習慣病とのかかわりについて詳しく教えて頂き、 大変感謝しております。
幅広い講演内容で時間が足りずに、認知症と生活習慣病との関係をもう少 し聞きたかったというところが心残りでした。
認知症、特にADはいつ自分や家族に降りかかるか分からない問題であ り、各自が生活習慣病の予防・コントロールを行い、
スポーツで脳血流を増加させ、ストレスを貯めないようにすることが大切です。
また、知的活動がADの発症リスクを低下させるというデータもあり、今後もさらにできるだけ積極的に研究会・講演会に足を運び
勉強することが大事だということを自覚して講演会のサマリーを閉めたいと思います。
広報委員 松枝 俊祐